2010 |
05,16 |
«無題»
週一更新といいながら微妙に日付が変わってしまった今日。でも気にしない!
……えーとですね、本日もこちらで更新します。
理由はというと、短編書いたはいいものの、いい題名が浮かばないんですよね。
しばらく経ったら、適当に連作短編として題名つけてサイトのほうにもアップすると思います。
で、今回の追記テキストですが、数日前にシュウ兄さんと2主の関係について脳内フィーバーが起きたのの成れの果てです。
元々シュウ兄さんも好きですし2主君も好きなので、この二人が組み合わさるとたまらない。
そして主従関係って大好き。
2主がミューズに行ってしまったときかそこらのシュウ兄さんの2主のことは全てフォローするさ発言にときめきを覚えた人ってきっと私だけじゃないよねって信じてる!
……ってな邪念が授業中も脳内にはびこって大変だったので沈静のために書きました。びっくりするくらい楽しかった。
えっと、今日はちょっとやる気が起こらないので無駄な改行なしで投下してみる。
もしかしたら、こっちの方が読みやすかったりして……。
元気があるときに比較してみます。もしお暇があるのでしたら、見てくださっている方々にも意見をお願いしたい……かな。
拍手、ありがとうございます。皆さんの拍手に支えられて、悠久の果ては成り立っています。
宰相閣下の部屋には小柄な者なら優に入れるような窓があり、窓の横にはちょうど枝を伝って部屋の中に行くことができそうな木が一本植わっている。護衛役が、刺客が入りやすくなって危ないからと幾度となく切り倒すように頼んでいるのにも関わらずこの木が未だ青葉を生き生きと茂らせているのは、宰相閣下あの仏頂面の下では緑を愛する心優しい人だから説やら木を一本切り倒す間に民のために何かをしろという主義のため説など諸説あるが、実際のところ理由は明らかになっていない。
風に揺れていた枝が異なる重みによってたわむ気配を感じた気がして、シュウは羽ペンを動かしていた手を止めた。視線だけを巡らせると、窓の外から手元を興味津々に覗いて来るヘイゼルの瞳にばったりと出会う。シュウが反射的に普段からもにこやかとは言えない顔をさらに険しくすると、窓の外では少年が屈託のない笑顔で手を挙げた。
「やあ、シュウ。久しぶり」
赤い服に金環の出で立ち。太い枝に危なげなくしゃがみ込んでいる少年はかつての日々が舞い戻ったかのように変わりない姿でそこにいた。悪びれない態度に、自然とシュウの口からはため息が漏れる。
「・・・・・・そろそろ唐突に現れるのはやめてくれませんか。心臓に悪い」
「シュウの心臓はそんなに柔じゃないと思ってたんだけど。それとも、寄る年端には勝てない?」
「・・・・・・・・・・・・」
「そういや、白髪も増えた気がするね。色々大変だー」
「そこで無駄に目の良さを発揮しなくともよろしい」
「ちぇー」
まるで本当の少年のように唇をとがらせる少年に、シュウは頭が痛くなるのを抑えられなかった。これでもこの少年は30は越えているはずなのに、妙に似合っているのにこれまた嫌気がさす。三つ子の魂百までというが、この根性も口ぶりも何もかも本当に変わっていない。これが一時期玉座に収まり返っていたなんて、自分が補佐していたとはいえ改めて信じられない思いだ。シュウが頭を抱えていると、外の少年は枝につかまる手を離して器用に肩をすくめた。
「いい加減慣れてよ。これが初めてじゃないんだからさ」
「せめて先に連絡を入れろといつも言っているでしょう。連絡さえあれば私は文句は言いません」
「僕は身一つなんだよ? それに連絡入れたら入れたで遅れたら絶対に怒られるからヤダ」
「・・・・・・・・・・・・」
呆れると同時に、少年の指摘は否定できないシュウだった。連絡がないのもそれはそれで心配だが、連絡が入ったとしたら少年がいつ現れるのかと気が気でなく、身が保たない。そのストレスたるや、想像するだけでも相手に非がなくても腹いせにねちねちと嫌味を言ってしまいそうなほどだ。連絡方式はお互いの精神の安全のためによくない。
「大体さ、僕にここから来てほしくないならこの木切っちゃえばいいじゃないか。宰相権限使えばそんなの楽勝だろ?」
「今話しているのはそう言う問題ではありません」
「でも、結構前に切られててもいい気はするのにこの木ずっとここにあるよね。まるで僕が気軽に来ていいって許可されてるみたいだ」
ぐ、とシュウは言葉に詰まった。実は図星である。
王という位を引退してからは、この少年は人の目を避けている節がある。いつまでも老いることのない体は、知っている者はまだしも知識がない者にとっては十分異質なものである。少年はそれをちゃんとわかっていて、宰相を訪れるときにはこっそりと忍び込んでくるのだ。本当は正面から来いと怒鳴りつけたいところだが、少年の意向を尊重してシュウはこの不定期な訪問を黙認している。
この木は、そのことを示す印でもあり、シュウなりの「いつでも帰ってこい」というサインとしてこのままにしてあるのだ。誰にも告げたことはないが。
だが、そんな本音をここでおめおめと吐き出す気にはならない。シュウは机の書類を片づけながら、不機嫌な声を作って言った。
「切るのが面倒なだけです」
「だろうと思ったよ」
それきりその問答には興味をなくしたように少年はあくびをした。無意識の指摘だと確信し、シュウは何となくほっとした。昔から少年はこうしてひやりとするような質問を本人は意識せずに投げつけてきたものである。わかっていて指摘する隣国の英雄よりは、まだ気づいていない分かわいげがある。
「そうそう、この前なんだけどさ・・・・・・」
少年は唐突に、窓の外にとどまったまま優れたバランス感覚を発揮して身振り手振りを交えつつ、訪れた場所やそこに住む人々のこと、出会った料理のことなどをにわかにとりとめなく話し始めた。シュウは彼の話をさして興味がありそうには見えない態度で、むしろ好き勝手に話させておくといった態度で聞いていたが、時折何事かを手元の紙に書き付けていた。その様子を見て少年は顔をほころばせると、尚更機嫌よく話を続けた。
「どう、役に立ちそうな情報はあった?」
一区切りがつくと、少年はそう宰相に問いかけた。
「ええ、十分に」
「ならよかった」
裏のない笑顔で、少年はにっこりと笑う。少年がこう一国の宰相を捕まえて旅先での話をとうとうとするのは、宰相がこの話の中から拾う情報があるのを知っているからだ。むろん、シュウも各地に手の者を放っている。だが、この特殊な来歴を辿ってきた少年の着眼点は配下たちとはひと味違うため、話を聞くだけでも気づかされることが多いのだ。少年もそのことはわきまえているから、そのためと明言はしないまでもよく自国の領土や敵国にふらりと行ったりして、そのみやげ話をキキとして話す。進化のみとしては彼のみが危険にさらされるのは歓迎できない事態ではあるが、本人がいって聞くような性格をしていないのだから仕方がない。せいぜいシュウにできることは彼の持ってくる情報を有効利用するだけである。
「長話したら喉が渇いた。なんかない?」
そう言って、少年は無邪気そのものといった顔で不躾に部屋の中を覗いた。シュウは無言で、部屋に備え付けの茶器に手を伸ばした。
「わ、宰相閣下手ずからのお茶なんて希少価値高いなー」
「味に文句は付けないでくださいね。文句があるんだったら他に人を呼んでちゃんとしたものを入れさせます」
「そっちこそ、まずいお茶を入れてわざわざ人に淹れ直させるなんていう手間なんかかけさせるなよ?」
シュウはむっとして淹れたばかりの茶をずいとつきだした。少年は地面に落とさないよう慎重な手つきで茶碗を受けとると、ふーふーと吹き冷ましてから口を付けた。
「あちっ!」
慌てて火傷したのか、舌を突き出して冷ます様子にシュウはやれやれと額に手を当てた。自分の茶をすすりつつ、涙目の主お構いなしにメモを取った帳面を見返す。
トキワの話には、常々民の立場での率直な声が聞きたいと思いながら手が足りないで放置していた地域の話がいくつもでていた。シュウはそのことを誰に口外したのでもないのに関わらず、だ。
本人を問いつめてみても、ただ自由に動き回っていただけだと答えるのだろう。それが、シュウの主だった。
「ごちそうさま。前より腕が上がったんじゃない?」
「それは光栄です」
「じゃ、そろそろ行くよ。そんな長い間仕事の邪魔をするのも悪いしね」
ようやくお茶を片づけた少年は、軽く伸びをして告げた。シュウは底意地の悪い笑みを浮かべながら、からかうように声をかける。
「どうせなら久々に手伝っていきませんか? あなたが国政の手伝いをするのには誰も文句を言わないでしょう」
「ごめんこうむるよ! 王の位から逃げ出した甲斐がなくなるじゃないか」
大まじめに断言すると、少年は窓枠に茶碗を置く。シュウはその茶碗を手に取りながら、ふと少年をこの地に引き留めたい気に駆られた。だが、彼は自分が束縛となるのを嫌がるだろう。シュウが少年にできることは、よき臣下として力の限りを尽くしてこの国を繁栄させることだけだ。
「あなたは無駄に生活力が有り余っているから大丈夫でしょうが、道中気をつけてくださいね。それからあまり他人にも迷惑かけないように」
「いつまで言うつもりなのさ。僕だっていい歳だよ?」
「その性格が改まるまでです。あなたにここまであけすけに物を言えるのは私だけでしょうから」
「そりゃそうだと思うけど、シュウに口うるさい母親のようなこと言われてもなー・・・・・・」
「喧嘩売ってるんですか?」
じろり、とにらみつけると少年は首をすくめて身軽に木を飛び降りた。シュウが窓から地上を見下ろすと、少年はひらひらと手を振ってどこかへと駆けだしていった。
「失礼します」
宰相の執務室をノックして珍しく返事がなかったことに気がついたクラウスは、そっと扉を押して中をうかがった。普段なら寸暇も惜しんで仕事に打ち込んでいるシュウだが、今日は開け放たれた窓の先をぼんやりと眺めている。机には使用済みの茶碗が二つ、仲良く並んでいた。
「シュウ殿」
声をかけると、宰相は初めて気づいたようにクラウスを見た。
「あの方がいらっしゃっていたのですか?」
「ああ、もう去ってしまわれたがな」
名前を出さなくても、伝わる。彼がたまにふらりと姿を現すことは、一部の人間には周知の事実だからだ。
我に返ったように、シュウは茶器を片づけ始めた。クラウスは静かに微笑むと、窓の先の青空に目を細めた。
「今度は私もお会いしたいものです」
「また来たら伝えておこう」
途中の手を止めて、シュウもまた空に目をやった。ふわりと薄い雲の浮かぶ、優しい青空。それを彩るように、宰相の部屋の傍らの木がゆったりと風に身を任せて枝の先を踊らせていた。
RPG・読書・海・鉱物・マグリット・児童文学などが好き。
幻水は親友とオベル一家を特にプッシュしてるが実質世界ごと好き。マイナーキャラが取り上げられていると喜ぶ。
APHにも最近どっぷりとはまった。北伊領。主に初恋からの芋とかが絡んでくる流れが好き。